【産経抄】11月20日
キリシタン殉教者の列福式が24日、日本では初めて、長崎市で行われる。その実現のために奔走し、参列を楽しみにしていた結城了悟(りょうご)神父が今月17日、86歳で亡くなった。結城神父の最後の著作となったのが、曽野綾子さんとの対談集『愛のために死ねますか』(中経出版)だ。
▼対談のテーマである「愛」の対極は「憎しみ」だ。「テロリズム」がそれを世界にばらまいている。結城神父はいう。「テロリストたちは…いいことをやっていると、自分たちは思っています。だから、相手を許すということを知りません。現代という時代のいちばんの不幸は、そこにあります」。
▼元厚生事務次官宅を次々に襲い、2人の命を奪い、1人に重傷を負わせた犯人の動機は何なのか。両次官は、年金関連ポストを務めた共通点があった。年金をめぐっては、ここ数年、さまざまな不祥事が発覚してきた。憤りの声が上がるのは当然だが、それが万が一でも、連続テロというゆがんだ形で現れたとしたら、民主主義は成り立たない。
▼昭和53年に日本に帰化する前、結城神父の名前は、ディエゴ・パチェコだった。少年時代、生まれ故郷のスペインは、内戦のまっただ中。主義主張が違うというだけで、家が焼かれ、大勢の人が殺された。
▼犠牲者の一人の先輩神父から、生前受け取った手紙がきっかけとなり、神父は宣教師として、終戦直後の日本の土を踏んだ。広島の病院で、原爆症の患者を献身的に看護する人たちと出会い、日本人になろうと思い始めたという。
▼そんな日本の社会が大きく変わってしまった。「『愛』の意味が希薄になり、間違った方向へと向かうと、人も、世の中も、おかしな時代になる」。結城神父の警鐘に、耳を傾けたい。


